東京都心で登山気分を味わう方法
近年は登山ブームで、週末になると老若男女多くの人が登山に出かけています。 しかし、日常に目を向けてみると街中にも山のようなアップダウンはたくさんあるのです。 そこで、都内の街を山に見立てて、登山してみることにしました。
新宿を登山する
登山ブームも手伝って、週末になると多くの登山客が都内近郊の山に出かけています。特にミシュランに掲載された高尾山や、その近くの御岳山、奥多摩は都心から電車で一本という手軽さもあり、人気の登山スポットです。
私は大学で、地域づくりに役立つ人材を育成する「多摩川源流大学」というプロジェクトを担当しています。そのため、週末は学生達の実習の引率で、ほぼ山梨の山の中にいます。 しかし、都会に帰ってきて街中を歩くと、そのアップダウンの激しさに「まるで登山しているみたいだな」と感じる場面が多々あります。正直、山梨に行ったときより歩いている気がします。
普段は寝間着のまま一日中家にいて、夜お風呂に入る時に着ている寝間着を30分探すというくらい怠惰な生活をしている私が、山登りは無理だろうとあきらめていたのですが、普段歩き慣れている東京なら歩けるのではないかと思います。 ということで、多摩川源流大学プロジェクトの山登りが好きなスタッフと、新宿で登山することにしました。
まずはくだる
山登りで最初に思いきりくだるということは絶対にあり得ない行為なのですが、新宿の山を登るにはまずスタート地点までくだる必要があります。マイナスからのスタートなのです。
東京に住んでいる方ならご存知だと思うのですが、都営大江戸線のホームはどの駅も深く、新宿駅も36.6m地下という大変深いところにあります。山としては低いですが、ほぼ垂直方向に登らなくては行けないのでしんどいものです。
大江戸線には入場券がないので、駅員さんに相談したところ「京王線の130円の切符を買って入って、有人の改札でその旨伝えて出るように」と教えてくださったので、その通りにしました。普通の登山で言うところの、「入山料」みたいなことではないでしょうか。これで正々堂々と大江戸線の山を登ることができます。
大江戸線はすごく深いところにあると思っていたのですが、山だと思って登ってみると意外と制覇しやすかったです。よかった。でも、「もう一度やりましょう!」 と言われたら間違いなく断ると思います。夏休みの宿題を8月30日からやるような面倒臭さがあります。登山は計画的に登ることが重要です。
誰でも山の名前が言える
外に出て新宿の街を確認すると、新宿の山々であるビル群が見えます。普段山登りしている方が山を指差して「あれは穂高で…」と話しているのを聞き、「よく名前がわかるな、かっこいいな」と思っていたのですが、新宿ならその夢が簡単に叶います。
ビル名をいかにも山っぽく言えばいいのです。「あれは都庁山で標高(全長)243m」などと言えばいい訳です。「ルミネ」なんてまさに山の名前っぽいですね。
地下道を歩いてみる
新宿は地形が台地なので、歩いているとたまに下に道があったり、地下道があったりすると思います。特に新宿西口の地下道の階段は20個もあり、これを登り下りしていると、山の峰々を歩いている気分が味わえます。
地下道の峰々は、新宿のダンジョンと呼ばれている、新宿駅の地下道に通じています。新宿にも標高差はあるものの、もちろん地図にその表記はなく、どこを歩いているのか分からなくなってきます。都会でも十分遭難することがありますので、注意して下さい。
地下道のオアシス
山では一定のペース配分で歩けるように適宜休憩をはさんだり、「行動食」というおやつを食べたりします。地下道にも緑のオアシスがあったので、休憩をとることにしました。緑に囲まれて食べるキャラメルは最高で、川の清流のように染みこみ、疲れた体を癒してくれます。
稜線を歩く
高い山を登ると、峰と峰をつなぐ稜線を歩く楽しみがあります。景色もよく、比較的平らな道なので歩きやすいので、いくらでも歩ける気がします。新宿にも高い山と山をつなぐ稜線があるので、登ってみます。
同行したスタッフが「山の上だから涼しいですね!」と言っていました。普通に考えれば館内冷房なのですが、山歩きをしている私達にとっては清々しい新宿の空気に感じました。新宿の山々を2時間程歩き続けて、多少ハイになってきたのかもしれません。
新宿の最高峰を目指す
新宿登山の最後は、最高峰の243m東京都庁舎を制覇したいと思います。都庁周辺は新宿の中でも特に台地の高い場所にあり、昔は都庁のすぐ下にある新宿中央公園があった場所に淀橋浄水場があり、水を配分していたそうです。
本当は階段で登ってみたかったのですが、展望台へは、エレベーターに乗ってくださいとのことだったので、迷わずエレベーターへ。山にもロープウェーがありますし、同じだと考えることにします。
街を歩いて登山する
ついに新宿最高峰を制覇しました。最後は文明の力を使いましたが、歩いた時間は約2時間半、歩数は約15,000歩でした。 地面がコンクリートだったせいなのか、全員次の日は、足の裏だけがすごく痛かったです。 ビルよりも移動のための地下鉄や立体交差などが山に似ていて、東京の他の街や地下鉄も登山してみたいと思います。
(文:多摩川源流大学・矢野加奈子)