村のお母さんと「健康定食」を作る
最近、健康思考の人が増え、ヘルシーなイメージのある和食が、海外でも人気を博したり、世界遺産に登録されたりとブームとなっています。国内でも、昔から食べられてきた家庭料理などの和食を見直す動きが出てきています。 そこで、今回は私達、多摩川源流大学がフィールドにしている山梨県小菅村で、村のお母さんと一緒に健康定食を作ってみることにしました。
村の食事
村の食事というと、どのようなものを思い浮かべるでしょうか。たいていの方は野菜がたっぷり使われている、健康的な食事を思い浮かべるかもしれません。 しかし、最近では車を飛ばせば大型スーパーまで買い物に行くこともできるし、インターネットで買い物もできる時代になりましたので、いつでもどこでも欲しいものが手に入るようになりました。
しかし、ここ山梨県小菅村には、村の食材を活かした料理名人がたくさんいます。今回はそんな村のお母さんに、昔から食べられてきた、健康になれる「村の健康定食」を教わろうと思います。ちなみに私はほとんど料理ができないので、心配が山よりも高く、谷よりも深い企画です。
村のお母さんに教わる
今回、お料理を教えてくれるのは、村の料理名人の一人である守重廣子さんです。廣子さんは、お孫さんもいるおばあちゃんなのですが、いつまでも若々しく美しい方です。前々から、その秘訣は廣子さんの食にあるのではないかと思っていたので、今回はぜひそこも調査したいと思います。
廣子さんは、この定食のために色々とメニューを考えてきてくださり、なんと、朝の5時から畑に野菜を収穫に行ってくれたそうです。私はその時間、まだ寝ていて、ジャガイモをたらふく食べるという夢の中でした。
まずは下ごしらえ
料理は下ごしらえが重要、ということで、廣子さんに教えてもらいながら丁寧に野菜の下準備をしていきます。例えば、フキはスジが多いので、しっかりスジを取り、アクを抜くために水にさらしておきます。
私がもたついている間に、廣子さんはどんどん他の野菜を洗い、切って下ごしらえをしていきます。私の三倍は早く動いています。30分ほど下ごしらえをしたら、いよいよ調理をしていきます。
調理開始
下ごしらえがすんだら、いよいよ調理をしていきます。私は廣子さんの横で邪魔にならないように、その技を観察しました。 どの料理も基本的には時間が短く、調理方法もシンプルなものでした。グーで殴る、のようなシンプルな技の数々で、大丈夫なのかと心配になるほどです。
これなら私もできる、と思い、調子に乗って調理する役を代わってもらったのですが、ジャガイモの茹で時間を間違ってしまい、溶けていました。ジャガイモが砂のようにサラサラと溶けていくので、鍋に入れている間に何かの魔法にかかったのかと思いました。
やっぱり料理って難しい、ジャガイモ一つ茹でられない。そう言って私が落ち込んでいると、廣子さんが「大丈夫よ。なんとかなるから」と優しく励ましてくれ、アイスまでくれました。いま、間食してしまうというダイエットの大敵な状況になりましたが、この定食を食べれば挽回できるはずです。
すぐに廣子さんは生き残ったジャガイモをとりだし、皮をむいて、バター焼きにしてくれました。シンプルだけど表面がサクサク、中がほくほくのジャガイモのバター焼きの完成です。 失敗した材料から、こんなに美味しい料理が作れるなんて、廣子さんはいま流行りの美魔女なのかもしれません。
家族の秘宝
廣子さんは普段から季節ごとの食材を、塩漬けや、漬物にして常備菜としているそうです。今回もたくさんの常備菜を持ってきて、料理に使っていました。例えばシソやサクラの花を塩漬けにしたものや、あく抜きしたワラビを漬けたものなどです。
こうしておくと一年中、山菜や野菜が楽しめるし、料理に使えば余計な塩分を入れなくていいそうです。確かに、調理中一度も塩を使っているのを見ませんでした。塩分の取りすぎは体によくないので、これも健康につながるのだと思います。
村の料理は意外とシンプル
料理を習ってみてわかったのは、村の食事や技はシンプルだということです。難しい調理方法を使わなくても、切って炒める、それだけで美味しい料理ができます。
これは、採れたての新鮮な野菜を使っているからというのはもちろんですが、それだけではありません。そのために、普段から、毎日畑をしたり、味噌を作ったり、シソを塩漬けにしたり、そんな日々の積み重ねが料理になるのだと思います。シンプルだけど決して簡単ではないのだと思います。
シンプルな調理方法であっても、シャキシャキな歯ごたえや、ほくほくの食感がしっかりと出ていて、味もどれも美味しかったです。美味しいだけでなく、優しい味がしました。まるで、答えのわかっているクイズのようなやさしさです。
塩分も少なく、自家製の野菜中心でバランスがいいメニューなので健康定食にふさわしいヘルシーさです。このような食事を毎日食べれば、確かに健康になりそうです。村の人々が、太陽のように明るく元気なのもうなずけます。
料理は愛情
廣子さんは、調理をしている最中によく、「これは家族の誰々が好きで~」「これを作るとみんな喜ぶのよね」と嬉しそうに話してくれました。愛する家族など、誰かのために作ることが励みになり、美味しい料理が生まれるんだなと思いました。家族のために作る。そんな当たり前な日々の食事が一番の健康定食なのかもしれません。
(文:多摩川源流大学・矢野加奈子)